屍鬼 2010年12月04日(Sat)
凛堂 読み終えました。ああもう続きを読む楽しみを失ってしまった…。
面白かったです。いやもう本当に最高でした。
ストーリーも面白かったのですが、単なるホラーであるとかミステリーであるとかだけに留まっていないところがこの作家さんの凄いところ。
もちろんホラーやミステリーとしても特上の出来だと思いますが、人間の持つ救いようのない醜悪さや悲哀がリアルだし、かといってそれは人事だと目を逸らせるような過度のいやらしさでなく、ああ確かに自分も含めて誰しもが持っている物だと素直に納得できる(せざるを得ない)描き方なのですよね。どこか淡々としていて、でも仕方ないんじゃないかとか単純に正当化して逃げることも許されないような、それでいてそれを受けて感じるのは嫌悪感ではないのです。部分的には嫌悪感を感じるところもあるのですが、読み進めていくと最終的にはまあ大体納得できるように落ち着けるというか。無慈悲な気もするけど優しく諭されているようでもあり。
あと屍鬼はもうひとつ面白い手法が取り入れられていました。作中の人物が書く小説が随所でストーリーに絡んでくるんですが、それがストーリーそのものと上手く絡み合って進むんですよね。(小説に擬えた事件というわけではなく)
それだけではなく、それがこの屍鬼に敷かれた大きなテーマであり、ストーリーとテーマがその小説の結論にちゃんと帰結していくのが、まるでアートのようでした。
私は時々小説や作家さんの文章を指して、音楽のようだとか絵画のようだとか称する事があるのですが、それはその作品を読んで受ける印象が、音楽や絵画から受ける印象に似ていたり、作品が凄く巧みに情景を描写しているが故にその情景がリアルに想像できるという意味合いでの例えなのです。
でもこの屍鬼という作品は、言葉を素材としてその構成でもってアートたらしめてるように思うのです。
色んな要素が連弾のように追いかけ合って絡み合って、そういう意味でも面白いと思いました。小野不由美という作家はエンターテイナーであると同時にアーティストなんではないかなと。
この方の作品は、好きなのは十二国記シリーズなのですが、構成において凄く、また面白い小説は何かと聞かれたら屍鬼と答える気がします。本当に面白かった。物語自体も面白いのですが、それだけでない面白さがある。
ホラーが大丈夫だと言う方はお勧めします。ただし1巻は相当しんどいです。特に閉鎖的な田舎社会が苦手な私にとっては生理的にしんどかった(苦笑)でも2巻からは寝不足を覚悟なさって!(笑)
ちなみに屍鬼は漫画でも出てますが、絶対小説をお勧めします。小説読む前に漫画で安易にネタを仕入れるべきじゃない。
またスティーブンキングの「呪われた町」へのオマージュ作品ということなので、次はこの「呪われた町」を読みたいと思います。は〜楽しみ!読みたい小説が次に控えているということはとても幸せです。